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組踊上演300周年記念事業-特別企画-

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前編:『組踊を100倍楽しむ方法』崎原綾乃

組踊をはじめとする芸能や琉球史に詳しい方々による特集コラム。引き続き、琉球文学がご専門の崎原綾乃さんにご寄稿いただき、観劇のポイントとなる「組踊を100倍楽しむ方法」についてお伺いしました。
崎原さんには、「組踊の世界」と題したコラムもご寄稿いただいております。併せてご覧ください。

 

1 はじめに

皆様、組踊上演300周年を楽しんでいらっしゃいますか。この一年のうちにぜひ組踊を何度も見て楽しんでください。上演ラインナップがこんなにも充実した一年はほかにありません。今のうち、見られるだけ見たほうがお得です。かくいう私も組踊の予定がぎっしりと詰まっています。同じ演目を何度も見るのもお勧めします。出演者によってそれぞれに味が違って、違いを見るのもまた楽しいことだからです。
さて今回は、組踊を100倍楽しむ方法をお伝えします。組踊鑑賞の助けとなる組踊のお約束、そして少しだけマニアックなお話をお届けします。

2 組踊のお約束

組踊は、1719年から上演されているため古典演劇の様式を持っています。そのため、現代ドラマやアニメと違って、組踊を見る前には、物語のストーリーを観客が事前に知っておくのが大切です。実は組踊などの古典演劇は、「わあ次の展開どうなるんだろう!」という観客を想定していません。観客は、物語のあらすじを知っているもの。もしくは観客も歌ったり踊ったりできる、と思っている節があります。古典演劇は、観客の想像力で台詞や演出の隙間を埋めます。そのため、組踊を見るときはあらすじを事前にチェックすることを強くお勧めします。
古典演劇の常として、組踊にも演出上のお約束があります。これらを知っていると、組踊は、何倍もわかりやすく楽しいものになります。
まず、役者のこと。琉球王国時代の組踊は、公務として士族の男性だけがかかわります。女性役も男性が演じ、男性の身体で女性らしさを表現するので、現実にはいない倒錯的な女性らしさが表現されます。これが組踊の魅力のひとつです。
立方は、基本的にお面を掛けずに、直面(ひためん)で演じます。お面を掛ける役もありますが、鬼、猿など人外の役です。

組踊「花売の縁」より:©︎(公財)国立劇場おきなわ運営財団

王府時代は役者の年齢と登場人物の年齢は基本的に合わせていました。例えば「二童敵討」では、二童を演じるのは役柄と同じ元服前(十五歳以下)の子どもでした。着飾った美少年の組踊なんて素敵です。
舞台下手側は、橋掛(はしがかり)という短い通路がかつてありました。現在では省略された舞台形式が多いのですが、その橋掛から登場するのは身分の高い人か、主人公という決まりがあります。舞台に出てきた立方は、最初に自分の名前、そしてなぜここにいるのか、今後何をしたいのかをウチナーグチで端的に述べてくれます。名乗りといわれるこれは、組踊に限らず、能や狂言などにも通じる古典演劇の様式の一つです。

舞台に複数の登場人物が立っている場合、舞台の上手側にいる人ほど身分が高いことを表します。例えば、組踊「二童敵討」の宴会の場面では、上手側に座っている阿麻和利が身分が一番高く、下手側にいる二童は身分が低いことを表しています。

組踊「二童敵討」より:©︎(公財)国立劇場おきなわ運営財団

所作のお約束として忘れてはならないのは、登場人物が舞台をぐるりと歩いて一周したら、もとの場所から長距離移動したことを表す、ということ。組踊に舞台転換はありませんが、移動して周囲の景色も変わり、時間も経ったんだなあ、ということを観客が想像することが大切です。
衣装のお約束としては、役柄の身分が低くてもボロを着て出てくることはない、ということです。なんといっても冊封使のためのおもてなしの芸能なので、見苦しい姿で舞台に登場することはありえません。
例えば組踊「執心鐘入」の宿の女は、作品の設定では猟師の娘ですが、実際に舞台に出てくる娘は、士族だけが着ることのできる紅型衣装に身を包んでいます。これもまた観客の理解と想像で、粗末な衣を着ていることになっていると気付いてもらう必要があります。

小道具では、本物の動植物を使わない、という不文律もあります。薪、花、犬、猪など全て作り物です。阿麻和利の衣装や大扇が豪華で見事です。また阿麻和利が使う酒具は豪華な作りになっていてよく見ると取っ手が耳のようで可愛いです。

組踊「花売の縁」より:©︎(公財)国立劇場おきなわ運営財団

地謡は、琉球王国では舞台幕の後ろで演奏していました。その伝統にならい、国立劇場おきなわでは紅型幕の後ろで演奏することが多いです。上手側に地謡が座っているときは、演奏の技法や歌い方をじっくり見るチャンスです。歌三線を中心として、箏、笛、胡弓、太鼓が一緒になって紡ぐ音楽は、至福の演奏です。地謡の各人によって表現や味わいが違うので、同じ曲目でもいくつかの公演で聞き比べることをお勧めします。

後編につづく



崎原綾乃(さきはら あやの)
沖縄市出身。琉球文学専攻。博士(文学)。趣味は琉球芸能鑑賞。

 


 

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