1. HOME
  2. 特集
  3. Column|後編:『組踊を100倍楽しむ方法』崎原綾乃

特集

組踊上演300周年記念事業-特別企画-

Column|
後編:『組踊を100倍楽しむ方法』崎原綾乃

コラムでは、組踊をはじめとする芸能や琉球史に詳しい方々に寄稿をお寄せいただきます。

第三弾コラム「組踊を100倍楽しむ方法」と題し、琉球文学に詳しい崎原綾乃さんに、組踊を楽しむための観劇ポイントについてご紹介いただきました。
後編では、組踊をさらに楽しむためのヒントをご紹介します!

 

1719年に琉球王国にやってきた冊封使、徐葆光の『中山伝信録』によれば、組踊のタイトル(外題)は、私達が現代知っているものとは相当違っていました。例えば「二童敵討」は「鶴亀二児復父仇故事」となっています。「鶴亀二児が父の仇を復する故事」とでも読み下したのでしょう。琉球人の間では「護佐丸敵討」と呼ぶのが一般的ですが、冊封使向けに全ての組踊に中国語でタイトルがついていました。

二童と母との別れの場面は、これが永遠の別れになるかもしれないという親子の思いが感動的な場面です。抑制された動きで悲しみを表しますが、この間、立方は動きを止め、地謡が別れの悲しみを切々と歌い上げます。組踊では、立方が動きを止めてじっとしている場合、地謡の聞きどころです。組踊は聴くもの、といわれているように耳で楽しむ芸能でもあります。

「二童敵討」で、美少年の二童を見て阿麻和利が大変喜んで着物や帯を与えるのは、1719年の当時、美少年への愛好があったことが背景にあります。これは近世の日本や琉球では特別なことではありません。余談ですが琉球のとある記録には、琉球国王と幼い男子が一緒に別荘で泊まった、という記述もあります。美少年を讃えた文学作品などもありますので、広く美少年愛好があったことがわかります。

組踊の仇討ちの場面では、殺害は舞台上では行わない、というお約束があります。幕内に敵味方が駆け込み、勝った方だけが舞台に現れることで表現します。血なまぐさい場面を舞台で演じないことも組踊の様式美のひとつです。なお、組踊で仇討ちを扱った組踊は沢山ありますが、実際に琉球国では仇討ちは行われていません。仇討ちが史実とは思わないようにご注意ください。

現代では行わない演出もあります。仇討ちの場面で日本の鎧甲を着て戦うこと、僧侶は僧侶用の特殊な帽子をかぶることなどです。なぜ演出が変化していくのか、それを考えるのもまた楽しいことです。

3 組踊をさらに楽しむために

国立劇場おきなわで毎月発行されているステージガイド。公演内容の解説はもちろん、毎月変わる特集記事では、実演家や出演者、演出家、原作者による制作裏話など、インタビューが盛りこまれており、国立劇場おきなわを楽しむための1冊となっている。

昔の組踊を知りたいと思ったら、明治・大正・昭和の古写真、数々の台本(台本ごとに内容が違うことも!)、沖縄本土復帰の頃のビデオ、各種芸能公演のパンフレット、名優たちのインタビューや劇評、もっと古いところでは墨の香りのする古文書など。さまざまな手段があります。そちらもちょっとだけ図書館などで追いかけてみてください。司書に相談するとたくさん出してきてくれます。

『組踊集』より組踊「姉妹敵討」:©︎ 琉球大学附属図書館所蔵

登場人物を客席から一生懸命応援してみるのも、楽しいことです。例えば「執心鐘入」では美少年若松が宿の女に捕まらないように応援してみる、とか、逆に宿の女の気持ちを想像して激しい失恋と愛憎の心理を想像してみるとか。組踊は観客の想像力によって、どんどん味わい深い物語になっていきます。

組踊の立方でも地謡でもよいので、誰か一人を好きになってみる、というのが一番近道かもしれません。ファンとして舞台に通い、何度も見ていくうちに組踊や周りの立方・地謡にも段々と詳しくなっていきます。間違いありません。私がそうですから。

同じ組踊演目であっても、伝統組踊保存会の継承と、沖縄の各市町村の集落で行われる演目では、演出や台詞などが違うことがよくあります。各集落の豊年祭での組踊を見学させていただくと、組踊のおもしろさがまた深まります。ぜひ、訪問してみてください。組踊ゆかりの地域には、登場人物ゆかりの史跡や碑文、墓などがあったりします。その史跡巡りも楽しいものです。

いつも私が思うのは、組踊を見たら、感想を言い合って欲しい、ということ。口頭でも、インターネットでも構いません。自由に感想を言うのは楽しいですし、それが組踊をさらに育てることになります。

三百年にわたって伝承された組踊は、古典も創作も含めて、これから未来へ伝える価値のある文化です。この三百年から更に先へ伝えるために、まずは組踊をたくさん見て楽しむこと。そこから始めて欲しいと願っています。願わくば、我こそはと組踊役者になったり、組踊を書いて演出するぞと意気込んだり。そういう活気ある三百年になることを期待しています。そのためにもまずは、組踊を見て100倍楽しみましょう。



崎原綾乃(さきはら あやの)
沖縄市出身。琉球文学専攻。博士(文学)。趣味は琉球芸能鑑賞。

 


 

SPECIAL

特集リポート