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組踊上演300周年記念事業-特別企画-

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『組踊における女性立方の現在と将来への期待』伊佐尚記

コラムでは、組踊をはじめとする芸能や琉球史に詳しい方々に寄稿をお寄せいただきます。
新聞記者として、つぶさに琉球芸能を取材してこられた伊佐尚記さんに、「組踊における女性立方の現在と将来への期待」と題し、女性立方の活躍ぶりをご紹介していただきます。

 

琉球王国時代、組踊は士族の男性によって演じられていた。廃藩置県後に芝居小屋で組踊が上演されるようになった後も男性の役者が大半で、戦前の女性立方・舞踊家はごく少数だった。しかし戦後、役者たちが次々と琉舞道場を開設し、多くの優れた女性舞踊家を育てた。そのため戦後しばらくは女性が女や若衆の役を演じ、男性が男役を演じるという形で組踊が伝承されていた。

ところが1972年、組踊が国の重要無形文化財に指定された際に「女方(女形)によること」という要件が付き、結果として組踊を演じる女性立方・舞踊家は減ってしまった。しかし、その後も一部の女性は継続的に組踊を演じたり指導したりしている。また、1990年に県立芸術大学邦楽専攻(現在の琉球芸能専攻)が開設されたことなどにより、組踊に取り組む女性は再び増えている。このコラムでは、文化財としての組踊が女形に限定された経緯を振り返り、現在、意欲的に活動している女性立方たちを紹介したい。

女形に限定された背景と今も組踊に取り組む重鎮たち

組踊は沖縄が日本に復帰する前の1967年、玉城朝薫による5作品(朝薫の五番)が琉球政府の文化財に指定された。それを引き継ぎ、日本復帰を果たした1972年5月15日に国が組踊という芸能全体を重要無形文化財に指定した。文化庁監修の『月刊 文化財』2019年5月号(668号)によると、国指定時の要件は琉球政府指定時の要件をおおむね踏襲したという。琉球政府の指定要件では「原則として女形によること」とされていたが、国は「原則として」の文言を取り「女方によること」とした。

当時、東京国立文化財研究所にいた三隅治雄も国の指定に関わった一人だ。三隅によると、「文化財としては、歴史をさかのぼり、本来持っていた形を保持するという条件が必要ではないか」という意見が多く出たため、女形に限定されたという。三隅は「そのような制限をしたことによって、男性による組踊が復活したことは非常に良かったと思う。女形も上達している」と評価する。一方で「私自身は、女性が女役と若衆役を務めて、立役(男役)は男性がやる組踊もいいものだと思う。それはそれで大いに盛んになってほしい」と語る。

三隅によると、王国時代は若衆が女役と若衆役を演じていた。若衆は男性でも女性でもないとされ、中性的な美しさを持っていた。こうした歴史から「戦後、女性が女や若衆を演じても違和感はなかった」と指摘する。「男性と女性を交えた組踊も、女性だけの組踊ももっとやっていい。戦後、名優たちが一生懸命に女性を育てた伝統は生かされていい」と強調する。

重要無形文化財「琉球舞踊」保持者で朱日流(あけびりゅう)家元の古謝弘子は、復帰前から現在まで積極的に組踊に取り組んでいる女性実演家の一人だ。古謝は宮城美能留に師事し、自身も弟子らに組踊を教えてきた。2018年に国立劇場おきなわが主催した研究公演「女性の演じる組踊」では「手水の縁」を演出し、女性立方が女と若衆の役を、男性立方が男の役を担当した。保持者認定を祝う2019年11月の公演では女性立方のみで「執心鐘入」を演じた。

琉球舞踊保持者で太圭流(たかりゅう)家元の佐藤太圭子も、2018年の「女性の演じる組踊」で、全て女性の立方による「執心鐘入」を演出した。佐藤は島袋光裕に師事し、真境名由康らの指導でも組踊に出演してきたという。佐藤の演出する「執心鐘入」は宿の女の心情表現にこだわっている。女が心から鬼になることはできず、人の心がよみがえって自ら去って行くことなどが特徴だ。従来の型とは異なるが、女性ならではの視点で描かれ新鮮な舞台だった。

研究公演「女性の演じる組踊」の「執心鐘入」で宿の女を演じる饒波園代(左端)。小僧役は孤島丘奈(手前左)、仲本久乃(同右)、山城亜矢乃(奥)=2018年、浦添市の国立劇場おきなわ ©︎琉球新報社提供

 

中堅・若手世代の挑戦

中堅・若手世代では、県立芸術大大学院で組踊を学んだ女性立方たちが2012年に結成した「女流組踊研究会めばな」(山城亜矢乃代表)が意欲的に活動している。現在の会員は20代~40代の14人。女性としてどのような立方を目指すか、どう組踊の継承に携わっていけるかに日々向き合っている。

2014年から県文化振興会の「県伝統芸能公演」(かりゆし芸能公演)の中で数回公演を行っているほか、学校鑑賞会やワークショップにも取り組んでいる。めばなの活動は次世代に組踊を普及、継承していくことを重視している。公演では初心者向けの解説に力を入れ、親子の観客が多い。2019年8月に開催した、組踊の登場人物を絵柄にした「組踊うちわ」作りのワークショップも多くの親子らでにぎわった。同年10月に上演された新作組踊「対馬丸」では、組踊を演じたことのない12人の子役を5カ月にわたり指導した。「対馬丸」は2020年1月19日に琉球新報ホールで再演を予定している。会員たちは「子どもたちに親しみを持ってもらいやすいのは女性の強みだと思う」と話す。

めばなの若手・喜納彩華による新作組踊「キジムナー」は2017年、学校鑑賞会の際に「今の子どもたちにも分かりやすい物語がいい」という学校側の要望を受けて創作した。きょうだい愛などをテーマにしている。2018年のかりゆし芸能公演では、「キジムナー」などの新作や古典の組踊にプロジェクションマッピングを取り入れて上演するという試みをした。めばな会員の金城佳子は「プロジェクションマッピングを取り入れるのは勇気が必要だった」と明かす。一方、会員の知人友人にも組踊を知らない人は多い。金城は「プロジェクションマッピングに興味を持って見に来た人に『組踊は面白い』と思ってもらえたら2回目につながる。時代に合わせていろんなものとコラボレーションしたい。賛否はあるけど、改善して、また意見をいただいて、を繰り返しながら挑戦を続けたい」と力を込める。2019年の12月20、22日にも、かりゆし芸能公演でプロジェクションマッピングを取り入れた組踊を上演した。

国が認定する組踊の保持者は、立方については男性に限られている。保持者でつくる「伝統組踊保存会」が養成する伝承者も立方は男性のみだ。これについて金城は「落ち込んだ時もあったけど今は割り切っている。未来につなげることを考えた方がいい」と前を向く。だが保持者と伝承者が男性立方に限られていることにより、男性の方が組踊を学ぶ機会や出演する機会が多くなっているのも確かだ。めばなの若手、嘉数愛美は「組踊が好きなので、もっと出演してレベルアップしたい。男性は(出演の機会が多くて)うらやましいとは思う。女性が出る企画がもっとあればうれしい」と率直に語った。

新作組踊「キジムナー」でキジムナー(右・喜納彩華)と遊ぶ女の子(嘉数愛美)=2018年、浦添市の国立劇場おきなわ ©️琉球新報社提供

 

組踊誕生300年の次に向けて

将来、女性の組踊立方の保持者になれる道を開くべきかについて、筆者自身はまだ意見をまとめきれていない。ただ、女性による舞台がもっと増えてほしいと感じている。女性の演じる組踊には、視覚的な華やかさや透明感のある唱えなど、男性のみで演じる組踊とは異なる魅力がある。出演が増えることで技芸も向上し、ファンが増え、さらに舞台が制作されるという好循環が生まれるのではないか。「舞台がなければ自ら企画する」という姿勢ももちろん大事だが、官民ともに女性による組踊をより発展させる意識を持っていただけたらと願っている。

少し話がそれるが、活躍の場が少ないのは女性立方だけでなく女性の歌三線実演家も同様である。「女性地謡の会しほら」など、力のある若手もいるが、男性に比べると出演の機会は少ない。女性ならではの柔らかな歌声は組踊に新鮮な彩りをもたらす。こちらも官民でもっと支えていけたらと思っている。

組踊初演から300年という大きな節目が終わろうとしている。例年より多くの公演が開催され、初めて組踊を見た人や、以前見たけどあらためて組踊の魅力を知った人も多いかと思う。女流組踊研究会めばなの会員たちは「今年は種まきでしかない。これからどんな芽が出るかが大事」と指摘していた。2020年以降も、組踊を愛する人々みんなで「組踊とは何か」「今後どうあってほしいか」を考えて続けていけたらと思う。

(敬称略)

かりゆし芸能公演の「手水の縁」で地謡を務める「女性地謡の会しほら」の(後列左から)前田博美、金城恵、島袋奈美、新垣恵、親川遥=2019年1月、浦添市の国立劇場おきなわ ©️琉球新報社提供

 


伊佐尚記(いさ なおき)
1985年生まれ、宜野湾市出身。2009年に琉球新報社入社。
政治部、北部報道部を経て13~18年度に文化部で芸能を担当。
現在は社会部。著書に『焦土に咲いた花 戦争と沖縄芸能』。本人は無芸。


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