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組踊上演300周年記念事業-特別企画-

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『組踊300周年 インタビュー連載を終えて』真栄里 泰球

コラムでは、組踊をはじめとする芸能や琉球史に詳しい方々に寄稿をお寄せいただきます。
本サイトの特集記事「未来への継承者たち」で、11人の実演家の方々にインタビューされた真栄里泰球さん。
インタビュー連載を終え、組踊上演300周年記念事業についてコラムを寄せていただきました。

 

組踊を含む琉球芸能界は現在若手が元気で層も厚い、といわれて久しい。組踊上演300周年記念事業実行委員会のサイトで何か企画をという話が持ち上がった時、「組踊を『次の100年』へつなぐ若手を紹介するコーナー」をつくることは、割合にすんなりと決まった。しかし、「芸道無限」の世界での「若手」の定義は迷った。結局、委員会のサイト担当との相談で、機械的・暫定的に「40歳以下」を条件とすることで落ち着いた。

こうして出発した「Interview|未来への継承者たち」で、なにより悩んだのが人選だ。伝統組踊保存会や国立劇場おきなわなど“主流“の舞台だけでも、40歳以下の実演家はたくさん活躍している。最後は独断と勢いで立方の嘉数道彦さん、佐辺良和さん、玉城匠さん、宮城茂雄さん、歌三線の島袋奈美さん、新垣俊道さん、和田信一さん、箏の池間北斗さん、胡弓の森田夏子さん、笛の入嵩西諭さん、太鼓の久志大樹さんの11人にお願いすることになった。連載回数の関係でご紹介できなかった方も多い。ぜひ生の舞台で、注目株を見つけてほしい

若手のリーダー格の嘉数道彦さん、新垣俊道さん。全国レベルの賞を受けた佐辺良和さん、池間北斗さん。沖縄県立芸術大学や国立劇場おきなわ組踊研修といった近年の「若手の王道」とは違う道を選び、活躍を続ける宮城茂雄さん、久志大樹さん。目下伸び盛りの玉城匠さん。伝統へのリスペクトと進取の精神に富んだ入嵩西諭さん。いずれも、組踊への真摯な思いが印象に残る。

なかでも、京都出身の和田信一さんの挑戦は、組踊が固有であるとともに普遍性を持っていることを示すものだろう。森田夏子さん、島袋奈美さんからは、女性への広がりと葛藤をうかがった。

宮廷芸能のころから男性によって受け継がれた組踊は、男性中心の芸能だ。特に立方は重要無形文化財の指定要件で「女形によること」とされている。しかし地謡の箏の保持者はほとんどが女性だ。大城學氏は「戦後、箏奏者は女性によって引き継がれ、現在に至っている。その中から伎芸の優秀な奏者が輩出した。男性の箏奏者は少ない」(『沖縄ジェンダー学』第1巻)と指摘する。箏の保持者に女性を認めたことは、「女形要件」は必然ではなく、政策的なものとの示唆を受ける。

実際、戦後、女性芸能者が立方を担い、組踊復興を支えてきた経緯がある。また、優秀な女性地謡が台頭する兆しもある。「女形要件」が明記されていない地謡(歌三線、胡弓、笛、太鼓)で女性保持者が誕生するか、また、立方の要件は変化するのか、今後に注目したい。ちなみに、能楽で観世流に女性師範が誕生したのは1948年、女性能楽師が重要無形文化財の総合認定保持者になったのは2004年のことだ。

記念事業実行委員が開いたシンポジウムで新作組踊の話題になった際、実作者でもある嘉数道彦さんは、「組踊とは何か」との命題に触れた。嘉数作品に限らず、新作組踊が発表されるたびに議論になることだ。様式を重視し「型物」と表現される組踊。しかし、その様式とは何かなどは曖昧だ。現在の組踊が、「初演」あるいは琉球王国時代と同じような様式で演じられていると考える関係者はいないし、王国崩壊後の組踊も太平洋戦争などの要因で不明なところが多い。

芸能はその誕生と成熟の過程で、社会や風俗との関係を変えていくという。王国が滅び、「君に忠、親に孝」の儒教的精神が廃れてきた時代、服装や生活の道具も大きく変わった時代において、組踊は現代風俗との関係をどう位置づけるのだろうか。

現段階では「古典化」することで、現代と距離を置き世界観を守りながら、普遍的な情感や主題を見いだすことで、観客をつかんでいるようだ。古典化は決まり切ったものをなぞる、退屈さを意味するものではない。現代人としての実演家は、遠い組踊の世界を観客の眼前に蘇らせ、現代人しての観客を納得・感動させなければならない。組踊の生命力を信じ、自身の研鑽を怠らない人でないとできないことだ。

組踊の初演から300年の節目を迎えた2019年は、沖縄県内だけでなく、県外でも公演が多かった。組踊に触れる機会が増えることは喜ばしく、それだけの舞台を支える実演家・スタッフの蓄積があるのも組踊の底力だといえよう。

一方で、学術的調査・研究はもう一つ盛り上がりにかけた感がある。シンポジウムで県立博物館・美術館の田名真之館長が「『組踊』という名称がいつからかも不明」と指摘していたように、そもそも組踊には分からないことが多々ある。

初演300年が公演重視の「普及の年」だとすれば、今年からは調査・研究、次世代の育成も含めた「深化の年」であってほしい。この魅力的な芸能の「次の100年」のために。

最後にサイト運営スタッフのみなさんに感謝したい。



インタビュー:真栄里泰球(まえざと・たいきゅう)
2001年沖縄タイムス社入社。組踊や琉球舞踊など琉球芸能を長く取材。
新聞のほか国立劇場おきなわステージガイド「華風」、各種雑誌などにも寄稿している。

 


 

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