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組踊上演300周年記念事業-特別企画-

Interview|匠たちの舞台裏 vol.2「長嶺恵美子×比嘉啓和」

300年に渡って受け継がれてきた組踊。「インタビュー|匠たちの舞台裏」は、舞台を支える裏方にスポットをあて、シリーズで組踊の魅力について語っていただきます。今回は、ステージガイド「華風」で芸能の魅力を伝える編集者の長嶺恵美子さんと、国立劇場おきなわの舞台公演をつくる制作というお仕事をしている比嘉啓和さんにお話を伺いました。

(インタビュー:たまき まさみ)

Q|国立劇場おきなわステージガイド「華風」に携わることになったきっかけ

長嶺恵美子(以下、長嶺)|「華風」の前身は劇場内部で作っていたのですが、モノクロでサイズも大きく写真がほとんどない解説書で、台本や解説と出演者名等を掲載していました。私が関わるようになったのは、平成18年の10月号からです。年に2回ぐらい東京へ歌舞伎やオペラを見に行くようになって。そのときにカラーのきれいなプログラムを買っていたので、国立劇場おきなわもそういうものがあったらいいなと思っていたところ、「何か企画できませんか?」と提案されて、写真も増やして親しみやすいものにしたいと思い、企画を提出しました。実は「華風」の業務に関わるまでは、舞踊や組踊をはじめとする沖縄の芸能をほとんど見たことがなかったんですね。そんな右も左もわからない状態から、「華風」を13年にわたって続けてこられたのは、古典芸能について勉強することが楽しかったこと、インタビューなどで接するなかで人柄に触れるうちに、芸能に携わるみなさんを好きになったのが大きいですね。

国立劇場おきなわが発行しているステージガイド「華風」

 

Q|初めて携わった芸能の仕事で工夫したこと苦労したこと

長嶺|心がけているのはお稽古を見ること、お話を聞くことですね。私はこれから上演する公演のプログラムをお伝えするのが役目なのですが、演目にふさわしい解説者を選ぶことと、インタビューのページに今まで出ていない方を掲載するように努めています。やっぱり男性中心になりがちなので、女性の組踊のときには一人一人にコメントをもらうとか、女性にスポットがあたるようにも心がけています。実演家のみなさんは舞台人であり、大学で琉球芸能を専攻して学んできた研究者でもある。携わって5年目ぐらいから特に組踊は、実演家の方にどんどん解説を書いてもらうようにしました。「華風」のなかで一番大変でもあり、編集者としてやりがいや楽しさを感じるところは、誰に何を書いてもらうかということ。舞台の内容に寄り添いつつ、その背景や醍醐味を伝えるのが仕事です。

Q|国立劇場おきなわの企画制作課に入ったきっかけ

比嘉啓和(以下、比嘉)|まず、大学入学を機に三線を始めたのが芸能に触れるきっかけです。祖父も三線を弾くのですが、僕自身は「三線は年を取ってからやるもの」と思い込んでいて、家では一切触れませんでした。当時は日本語教師を目指していて、外国人相手に言葉だけでなく沖縄の文化も紹介できればと思ったことから、三線を手に取りました。入学当初は言語学を専攻していましたが、大学3年の時に大城學先生が琉球大学に着任され、講義を受けるうちに芸能にも興味を抱きました。地元の名護市宮里は豊年祭の芸能が充実しているので、卒業論文の題材にして記録しておきたいという気持ちが強くなり、思い切って大城先生の研究室に移って、芸能や琉球文学を専門的に学びました。卒業後、ご縁があって劇場の職員に採用され、今に至ります。劇場自主公演のプログラムや演目を決めて出演者にオファーし、稽古日程を調整して台本などを作り、舞台スタッフと協力してリハーサル・本番まで進めるのが仕事の流れです。

Q|制作の仕事に就いてみえた景色

比嘉|戦後、組踊を継承してくださった先達の方々から直に心と技を受け取ったのが、今の保持者の先生方。その先生方がお元気なうちに、次の50年、100年のために今度は僕たち世代が受け取る番だと感じています。出演者のみなさんには、所作ひとつにしても、型だけではなくその成り立ちなどを直に聞いて体得してきた先生方から教えていただける機会があるうちに引き継いでほしいと思います。先生方もそれぞれ大事にしている流会派のカラーや型もあると思いますが、ある先生の「今こうして上演できる組踊は、預かっているもの」という言葉を聞いて、重みがあるなと思って。業務として稽古にも毎回立ち会うので、一緒に見て聞いて、勉強しておきたいと思っています。

Q|一番印象に残っている公演

組踊「大川敵討」©(公財)国立劇場おきなわ運営財団

比嘉|どの公演も思い出がありますが、一番印象に残っているのは「大川敵討」です。平成26年4月の東京公演と、平成30年の5月、どちらも担当でした。2回とも谷茶の按司(たんちゃのあじ)役だった宇座仁一さんほか、ほぼ同じメンバーで臨めるうれしさもあったし、最初の乙樽(おとだる)役は東江裕吉さん、平成30年は宮城茂雄さんで、同じ役でもそれぞれ違った良さを感じました。平成29年の上演予定が、台風の影響で翌年になった経緯がありますが、再演が決まり島袋光晴先生も指導に熱が入っていましたね。終演後、光晴先生がとてもホッとした様子で「長生きしてみるもんだね」と仰っていたのが印象的でした。舞台には魔物がいるとよく言われますが、神様もいると僕は思っています。見に来たよ、というお客さんの気持ちと、舞台に立つ出演者のみなさんの芸や心がぴたっと重なって、劇場全体にそれぞれの気持ちが重なるのがいい舞台だと思う。その空間を作れるように、これからも頑張りたいです。

長嶺|私が見てきたなかで、舞台とお客さんが共有する幸福感を味わった公演ということでいえば、平成25年3月の新作組踊「聞得大君誕生(ちふぃじんたんじょう)」ですね。うちの母もその公演は見ていたのですが、翌朝真っ赤になるぐらい、手をたたいていました。歌舞伎の大スターである坂東玉三郎さんが、沖縄の若い人たちとこんなふうにひとつの舞台を作れるんだなという大きな感動がありました。

新作組踊「さかさま執心鐘入」©(公財)国立劇場おきなわ運営財団

それとはまた別で、大城立裕先生の新作組踊「さかさま『執心鐘入』」の初演のときに石川直也さんが宿の女役だったのですが、客席から彼を応援するようなすごい拍手が起こって。あのときの一体感を私も客席で見ていて感じたし、後で直也さんに聞いたら「初めて舞台でみんなに応援されているという気持ちになった。お客さんの拍手が自分にもしっかり届いた」と話していて。組踊ではなかなか途中で拍手が起こることはないので印象的でした。去る5月15日に上演された「忠臣身替の巻」もすばらしかったですしね。やっぱり若い人たちだけではなく、重鎮の先生が入ることによって生まれる味わいが何とも言えない。若手は重鎮を引き立てるし、重鎮は若手を引き立てるし。

 

 

Q|組踊とその魅力を見たことのない世代にも伝えるために

比嘉|若い人や新しい人に出てもらう機会を増やしてもいいのかな。棲み分けではないのですが、「忠臣身替の巻」や「大川敵討」などの大作は、脂の乗ったベテランのみなさん、組踊鑑賞教室など新しい客層向けの公演には、若い世代が出演する機会を作る。若い世代ががんばっているところを、同じ年代のお客さんは目の当たりにすることで興味を持ったり、入口にしやすいのではないかと思うので、そういう面では、出演者や演目を工夫するよう心がけたいですね。

長嶺|舞台芸術としての魅力はもちろん、実演家のみなさんが舞台の裏の見えない部分で真摯に自分の芸と向き合いながら、悩んだり葛藤したりしつつ、それを乗り越え舞台で輝いているのを見ると感動します。その両面を見ているからこそ、その両面を持っていることを伝えたいという気持ちがあります。

Q|初めて組踊を見る方に向けて

比嘉|組踊上演300年という節目の年だからこそ、これを機に気軽に劇場に来ていただき、まずは1本、ぜひ見てもらいたいです。いきなり古典作品を見るのもいいですが、鑑賞教室のように初めて見る方のための公演もありますし、最初から全部完璧にわからなくてもいいので、せめて入口に立ってもらえれば。地域の豊年祭などで組踊を実演している方たちにも、毎年上演しているものと、首里城で始まり実演家が守ってきたものと、元はひとつでもそれぞれ違う良さや味わいがあると思うので。どちらも優劣はなくて、言葉と身体、そして心で受け取ってきたものがずっと継承され、今も舞台に乗せられること自体が尊いので、大事に今後もつなげてほしいです。

長嶺|国立劇場おきなわの良さは、組踊のベテランから若手まで幅広い流会派を超えた人たちが集まり、同じ舞台に立てる機会があること。今出ているベテランのみなさんも10年前はこうではなかったでしょうし、努力してここまできたという過程がある。今の若い方たちも5年、10年すると味わいが深まっていくでしょう。その過程を含めて楽しんでもらえるとうれしいし、見に来られているみなさんで育てているという感覚を持ってもらえるといいなと思います。見続けるよさはそこだと思うので、くり返し見続けてほしいです。


インタビュー:たまき まさみ
1978年、那覇生まれ、那覇在住。フリーペーパー「夕焼けアパート」主宰。ライター。
幼い頃からもの書きになりたかったものの、どうすればなれるのかわからず路頭に迷って25年。出版社で仕事が見つからず、自分の媒体を作ることを思いつく。現在は「夕焼けアパート」の活動をきっかけに、新聞を中心に沖縄の文化や芸能、景色、ときどき食レポを書いています。国立劇場おきなわ企画制作課に嘱託員として勤務。琉球芸能を舞台裏で勉強しています。


 

 

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