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組踊上演300周年記念事業-特別企画-

Interview|匠たちの舞台裏 Vol.6 「新里幸己 × 末吉りえ」

300年に渡って受け継がれてきた組踊。「インタビュー|匠たちの舞台裏」は、舞台を支える裏方にスポットをあて、シリーズで組踊の魅力について語っていただきます。
王国時代につくられた組踊の世界を、今に伝える字幕製作。字幕に込める想いや、翻訳のご苦労などについて、新里幸己(しんざと・ゆきみ)さんと末吉りえさんに、たまきまさみさんがお話を伺いました。

(インタビュー:たまきまさみ)

新里幸己さんと、末吉りえさん  撮影:たまきまさみ

 

Q|字幕の仕事に関わるきっかけ。

新里幸己(以下、新里)|2000年の第26回主要国首脳会議(沖縄サミット)が決まった時に、外務省と国際交流基金が主体で、サミット記念ということで3つ事業が立ち上がったんですね。ひとつは米国とブラジル、ひとつが北欧、ひとつが欧州の3つで沖縄の芸能を披露するという公演事業があって、欧州のイギリスとドイツ公演で参加しました。そのときに字幕は株式会社イヤホンガイドが東京側から参加して、僕は舞台監督として行きました。そこでイヤホンガイドの方と知り合ったことで、「沖縄で後々仕事が一緒にできたらいいね」という話になって別れました。当時は、ちょうど国立劇場おきなわの建設工事が進んでいる最中で、イヤホンガイドの字幕表示器を、ヤマハが国立劇場おきなわへ設置したのです。そののち劇場のオープン以降、通年で字幕のオペレートをやってほしいと依頼がありました。途中、入札の関係でブランクはありましたが、基本的には開館してからずっと国立劇場おきなわの字幕業務に関わっています。末吉りえさんとは、末吉さんが放送局にいた時分からお仕事で関わっています。

末吉りえ(以下、末吉)|私はアナウンサーなので、字幕業務の専門ではなくて。たまたま新里さんから声をかけていただいたり、他の方からも公演で字幕を流したいという時に、関わるようになったことがきっかけです。本格的にてんぶすホールや他の公演等で字幕業務に関わるようになったのは、2011年ごろからです。現在も、アナウンス進行をしながら字幕操作もしています。新里さんのお仕事の進行では字幕室を使うと思うのですが、字幕室だと影アナウンスになってしまいます。そうではなくて小さいホールの中でお客さまの様子を見ながらアナウンスする方法がよかったので、今の私のスタイルとしては、パソコンとプロジェクターを台の上に置き、スクリーンに投影する形で字幕を流しています。このスタイルなら身軽なので、劇場だけではなく教室でも体育館でも可能です。マイクを持って最初に挨拶をして、それから操作するというパターンです。なぜそのようなスタイルかというと、夏休みには大宜味村にある農村環境改善センターで、11月は伊良部公民館、12月は久米島イーフ情報プラザや那覇西高校体育館と、さまざまな会場で字幕操作とアナウンスが対応できるように、そのような形を取っています。そして常にお客さまとフェイス・トゥ・フェイスであることを大事にしています。お客さまの様子を見ながら、字幕に気を取られている場面などはないか、気を配りながら操作をしています。

国立劇場おきなわ 大劇場の字幕 ©️(公財)国立劇場おきなわ運営財団

 

Q|業務はどのように習得したのですか。

新里|僕は沖縄県立芸術大学のOB会の舞台監督もやっているから、(組踊を)全然知らない訳でもないし、元々親しんでいた世界ではあるから入りやすかったのもありました。字幕というのは、演ずる側の立場では出せず、見る側の立場で流していくしかないから、タイミングを図るという面では自己流です。誰かが指導する、師がいるというわけではなくて。公演で場数を踏んで慣れてきたという形ですね。わざわざそのために勉強会をするというようなこともないです。

末吉|私も現場で覚えてきたという感じですね。字幕といっても、私がやっているのは新里さんのような表示器ではなく、パソコンとプロジェクターとスクリーンがあればどこでもできるものです。ある程度、機械を使える人なら大丈夫なんですよ。字幕で表示するために訳をつけたり、台本を整理していく作業がそれぞれ違うと思うのです。ですから、現場で見て「新里さん、こんなふうに字幕を流しているんだ、なるほど」と思いながら、自分のスタイルに生かしていくという感じです。

Q|字幕台本を作る作業はどんなものでしょうか。

新里|沖縄には、まだそれぞれの団体についている制作担当がいないので、台本を翻訳する業務ができていないのが現状です。国立劇場おきなわは、制作担当が各公演についているので、和訳がついた台本をもらうのですが、その他の公演はそうではないので。だから末吉さんが、翻訳から毎回作業が始まるという面では、結構大変だと思います。僕の場合は国立劇場おきなわの企画制作課を経由して共通語のデータとして届くので、データを一括で変換して字幕の用意をするという形を取れるのですが、まだまだローカルはそうではないので大変ではあります。

末吉|てんぶすホールも、組踊の台本はすべて琉球古語なんですよ。実演家の先生がそれぞれの感性で訳されたものを参考にしながら、それをある程度直して場合によってはこうしたほうが分かりやすいとか考えながら、組み替えてすべて自分で作るのです。てんぶすホールで上演する組踊は、演目が全て決まっていて12本ぐらいなので、ほぼ一巡して全て翻訳も終えており、あしび芸能座の末吉が訳した台本ができました。どなたが使うにしても、どうぞとデータをお渡しできるまでの作業が大変です。沖縄芝居は毎回アドリブがあったりして、せりふが変わるのでもっと大変です。

制作担当者がいない作品の字幕を担うときは、翻訳作業から始まる。組踊の台本は全て琉球古語。分かりやすさを考えながら組み替えを行う。  撮影:たまきまさみ

 

Q|字幕の普及について

新里|古典芸能全般で普及のためにやりたいことはあるけれど、予算に限界があったりするので難しいと感じています。僕はLEDの字幕表示器をもっと普及させたいので、それこそ公共機関が運営補助をしてくれたらもっと普及できるのかなと思うのです。

末吉|字幕って昔はなかったんですよ、全く。最初に県立郷土劇場で見た時に、かなりわからない部分があったんですけど。やっぱり字幕が流れることによって腑に落ちることってあるじゃないですか。そこを増やしていけるっていうのが字幕の存在だと思うのですが、全部が全部字幕を流すのではなくてタイミングと邪魔をしないという部分で、少しずつ新里さんもグレードアップしていて。そこは私もやはり心がけていきたいので、県や国の補助がないと続けられないと常に思っています。新里さんは、昔からとても苦労をされていて。自費でLEDの字幕表示器を買ったと聞いたときは「あきさみよー(まあ大変)」って思ってね(笑)。舞台監督や裏方をやっている方が何百万もかけて表示器を買うなんてね。芸能を伝えていきたいという思いから表示器を購入したのですか?

新里|うーん、挑戦かな。沖縄県立芸術大学OB会の女性二人に、この表示器のオペレーター業務を教えたのです。僕はOB会のメンバーが、例えばコンビニでアルバイトしているのを見ていたから、OB会にできるだけ仕事として提供できないかという思いもあり、字幕表示器を購入しました。僕も残りの人生を考えると、将来的には業務を引き継いでいかないといけないということもあり、今、彼女たちにも業務に携わってもらっています。

Q|字幕の存在について。

末吉|私が新里さんと違うのは、やっぱり客席に降りてお客さまの顔を見ながら自分が作った字幕の調整、例えば、このせりふは長すぎるなとか、タイミングが違うなとか。だいたいお客さまの目線が首の動きを見てわかるんですね。そういう意味では私のほうが、修正できる分、楽だと思います。あともうひとつは、会場によって文字が黒色だったり、グレーだったり、フォントも明朝体やゴシック体に変えられるので、お客さまが客席に座って見やすいように、作って直していくという作業を常にやっています。その辺は苦労もありますが、楽しみでもあるかな。あくまで鑑賞してほしいのは舞台であって、字幕は見ていないつもりだけど無意識で見ていたと、邪魔にならない存在になりたいです。

新里|僕たちは脇役だから、脇役としてフォローするというか。あくまでも舞台が主体で、実演家が主役ということを踏まえたうえで、この字幕業務は今後必要性のある仕事ではないかなとは思っています。

座席についたお客様が見やすいよう、色やフォントの調整にも常に気を配りながら作業をしている ©️(公財)国立劇場おきなわ運営財団

 

末吉|先日、「あまり字幕に目が行かなかったけれど、内容が良く分かった」とお客さまから言っていただきました。よくよく聞いてみると、字幕ばかりを見ていた気がしなかったということで、この時は内心「やった!」と思いました。字幕の仕事は、言葉が分からない観客が舞台を理解するのに必要なセットのひとつであり、実演家の引き立て役だと思います。今後、ほとんど言葉が分からないまま見に来られる方が増えると思うので。だからこそこれからもずっと、分からない時は字幕を見るけれど、すぐ舞台に視線を戻すというパターンを作りたいですね。子どもたちが多いときは、組踊が始まる前に結構な時間を割いてアナウンスをするんですよ。「この部分は舞台を見て字幕を見ないでね」というように促しながら、アナウンスをしています。例えば、「執心鐘入」だと中城若松が出てきてせりふを喋るじゃないですか。その冒頭部分は、そのまま訳すると子どもには難しいんですね。それなのでアナウンスの時に、「なぜ二十日夜の暗さで道に迷うのか」という部分を話してから始めないと理解ができないと思うのです。そうやって補えるのが楽しいかなと思って。字幕プラスアルファの作業に毎回挑戦しています。私はアナウンサーという強みを生かして、喋れるのはいいですよね。

新里|僕は十数年、国立劇場おきなわで字幕をやってきて、字幕表示器よりも本当はガイドアナウンスを勧めたいんですね。字幕を読んでしまうと、どうしても実演家を見ない瞬間も増えてしまう。そうすることで、いい場面も逃してしまう。それならガイドアナウンスで、状況描写を常に発信していたほうが、実演家をきちんと見ながら公演に集中できるのでいいなと思うのです。県外の歌舞伎や能は、3週間、1か月、2か月と公演の上演期間が長いこともあって、ガイドアナウンスのシステムも成り立っています。しかし、沖縄の公演は1日限りなので、なかなか実現することはかなわないのが現状です。どうしたらいいかというと、例えば10月の研究公演「御冠船踊と組踊」の際に導入した、ライブでガイドアナウンスとして喋るブースを作って音声を流すことです。東京の国立劇場は、イヤホンガイドがロビーの一角にブースを年間で借りて、公演に応じて機材を持ち込み、お客さま負担でガイドアナウンスのリースをしてもらっていて、その費用を利益に変えています。ですから国立劇場おきなわでも、そのようなシステムを導入してもいいのではないかと思います。

Q|次の世代の人たちへの継承とこれから。

新里|今継承という意味も含めて携わってもらっているのは、沖縄県立芸術大学OB会の女性二人だけですね。国立劇場おきなわに関しては、パソコンを持参しての字幕業務なのでまだできる範囲ですが、表示器を仮設で組み立てる作業等を踏まえると今後は男性も揃えて育てていきたいと思っています。

末吉|どうすればクオリティの高い舞台を作れるのか?と考えているのは皆同じだと思うのと、字幕があると観客が増えることはわかっているので、字幕を流す公演をどんどん増やしていきたいですね。

新里|僕たちもできる範疇でしかレベルアップしていけないし、ギリギリ間に合わせでは作りたくないので、「Slow but sure(ゆっくりでもいいから確実に)」をモットーにしています。実演家のみなさんにも部外者である僕たちを関わらせるのであれば、その仕事ぶりもきちんと見てほしいなという思いもあります。音響、照明、舞台は国立劇場おきなわができたことによって必要価値が認められて、認知度がすごくあがったけれど字幕の存在はまだ認められていない。その中でも、めげずに切磋琢磨しながら続けていくだけですね。やってきたことを残していかないといけないし、僕たちに代わる人たちをつくっていかないといけないので。あとは実演家のみなさんにできるだけ寄り添って、バックアップをしながら若手がどんどん活躍できるのならば苦労は厭わないです。


インタビュー:たまき まさみ
1978年、那覇生まれ、那覇在住。フリーペーパー「夕焼けアパート」主宰。ライター。
幼い頃からもの書きになりたかったものの、どうすればなれるのかわからず路頭に迷って25年。出版社で仕事が見つからず、自分の媒体を作ることを思いつく。現在は「夕焼けアパート」の活動をきっかけに、新聞を中心に沖縄の文化や芸能、景色、ときどき食レポを書いています。国立劇場おきなわ企画制作課に嘱託員として勤務。琉球芸能を舞台裏で勉強しています。


 

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